【市民のための法律講座(3)】災害救助法(1)〜衣食足りて礼節を知る〜

佐伯さん

災害救助法では、具体的にどのような支援が提供されるのでしょうか?

室長

応急救助という法の目的に沿って、衣食住を中心とした支援が行われることになります。

目次

衣食足りて礼節を知る

中国の故事に「衣食足りて礼節を知る」というものがあります。
みなさんも聞いたことがある方が多いのではないでしょうか。

「人は、物質的に不自由がなくなて、初めて礼儀に心を向ける余裕ができてくる。」という意味とされています(「デジタル大辞泉」)。

この言葉は、中国の政治家である管仲の思想をまとめた『管子』が元になっています。
原泰久先生の人気マンガ『キングダム』より前の春秋戦国時代の人物で、『三国志』で有名な諸葛亮孔明も尊敬していた人物であると言われています。

「衣食足りて礼節を知る」なんて言われなくても、人が生きていく上では、最低限、衣食住が必要ですよね。
「衣食足りて礼節を知る」という言葉は、人民統治の基本思想であると同時に、人が生活を営む上で最低限必要なものを端的に示した言葉とも言えるのではないでしょうか。

前回は、法律のフレームワークに沿って、災害救助法の目的を見ていきました。
そして、災害救助法の目的は、①被災者の保護と②社会秩序の維持にありましたよね。

その意味では、災害によって、衣食住という生活の基盤が失われた被災者に対し、衣食住を提供すること(手段)ができれば、①被災者を保護すると同時に、②社会の秩序を維持するという目的を達成することができそうです。

衣食住の支援

では、具体的に災害救助法の支援メニューを見ていきましょう。

具体的には、第4条第1項に支援メニュー(「救助の種類」)が定められています。

災害救助法第4条第1項

(救助の種類等)
第四条 第二条第一項の規定による救助の種類は、次のとおりとする。
一 避難所及び応急仮設住宅の供与
二 炊き出しその他による食品の給与及び飲料水の供給
三 被服、寝具その他生活必需品の給与又は貸与

四 医療及び助産
五 被災者の救出
六 被災した住宅の応急修理
七 生業に必要な資金、器具又は資料の給与又は貸与
八 学用品の給与
九 埋葬
十 前各号に規定するもののほか、政令で定めるもの

赤字部分に注目してください。
災害救助法においても、具体的な支援メニューの最優先事項として、冒頭の3つに「衣食住」が定められています。

<衣食住の提供(手段) → ①被災者の保護と②社会秩序の維持(目的)>

法律のフレームワークでお示ししたとおり、法律の目的と手段は、常にリンクしているのです。

こうしてみると、はるか昔から、統治(政治)の基本は変わっていないのかも知れませんね。

ただし、災害救助法においては、憲法の理念(国民の権利が一番大切だという思想)に基づいて、被災者の保護が最優先とされている点に留意が必要です。

災害救助法における衣食住の支援

一 避難所及び応急仮設住宅の供与 → 「住」
二 炊き出しその他による食品の給与及び飲料水の供給 → 「食」
三 被服、寝具その他生活必需品の給与又は貸与 → 「衣」

まずは、避難生活の拠点としての避難所があります。
なお、高齢者や障がい者など避難生活に配慮が必要な方には「福祉避難所」というものもあります。

避難所では、「住の提供」に合わせて、「食の提供」(食品や飲料水の提供)や「衣の提供」(肌着や下着などの被服、掛け布団や枕などの寝具、タオル、シャンプー、歯磨きセットなどの衛生用品等)が行われます。

加えて、災害情報や医療サービスの提供などが行われます。
避難所は、被災者にとって、プラットフォーム的な役割を果たしているのです。

避難所における支援の充実

とはいえ、わたし自身も、自治体職員時代に、避難所で寝泊まりした経験があります。

体育館を避難所としたものでしたが、エアコンなども無い上に、布団が足りず、運動用のマットで仮眠を取ったため、ほとんど寝ることができなかった記憶があります。

ただし、避難所は、被災者にとって、プラットフォームの機能を果たすため、様々な災害における経験の蓄積や被災者の要望を踏まえて、年々充実が図られています。

例えば、政府の資料において、「避難所でできること」が公開されています。
なかなか、いろいろなことができそうですね。

出典:内閣府政策統括官(防災担当)『災害救助法の制度概要(令和5年6月版)』

現物給付の原則

こうして、災害救助法による支援は、「衣食住」の提供を中心に、物資で行うことが原則となります。

当たり前の話ですが、被災時に応急に必要なのは、まずもって、お腹を少しでも満たすパンであり、喉の乾きを潤す水であり、体を休めることのできる布団なのです。

災害救助法による支援は確実に行われるべきであることから、物資や食事、住まい等についての法による救助は、現物をもって行うことが原則であるとされ、「現物給付の原則」といいます。

行政による支援は、お金を支援すること(補助金の支給など)も多いのですが、災害救助法では、モノの給付が原則である点が特徴である点については、第1回にご説明したとおりです。

こうして、災害救助法において、衣食住の支援が中心に行われることをご説明しました。

次回は、こうした支援を具体的に誰がどのように行うのか。その仕組(メカニズム)について見ていきたいと思います。

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