【市民のための法律講座(2)】法律のフレームワーク

目次

はじめに

佐伯さん

今回からは、被災者に最初に寄り添うルールである、災害救助法を見ていくのですね。

室長

災害救助法は、応急救助のルールとして、とても重要なルールですよね。
ただ、今回は、災害救助法の1条を用いて、どのような法律でも活用できる法律のフレームワークを習得しましょう。

前回は、被災者に寄り添うルールの概要を見てきました。

具体的には、災害発生初期の「応急救助」が必要な段階では、「災害救助法」が「物資(応急仮設住宅、食品・飲料水の提供など)」を中心にサポートし、「復旧・復興」に向けたフェーズでは、「被災者生活再建支援法や「災害弔慰金法」などが「お金(生活再建や住宅の補修など)」の面からサポートしていくということでした。

我々市民としては、どの段階で、どのような支援を受けることができるのかという点が大切でしょう。
そうした観点で、今回からは、被災者に寄り添うルールについて、個別的に見ていこうと思います。

トップバッターは、災害発生当初で活躍する「災害救助法」です。

もっとも、いきなり法律の海に漕ぎ出すと、法律の海で遭難してしまうかも知れません。
私も法学部出身ではないため、ロースクール入学してから、相当に苦労しました。

そこで、最初に、法律の海を航海するのに必要な羅針盤(道しるべ)として、「法律の考え方の枠組み」(以下「フレームワーク」と言います。)をご紹介します。

難しそう?

でも、大丈夫。日常みなさんが、普通にやっている考え方の応用に過ぎませんから。

日常のフレームワーク

いきなりですが、みなさんの多くは、ご自身の健康に関心がおありだと思います。
健康を維持するために、ウォーキングやジム通いを実践されている方もいらっしゃると思います。

この関係性をあらためて考えると、「健康維持」という目的(ないし目標)があって、手段として、「エクササイズ(ウォーキングやジム通い)を行う」という関係にあります。

次のような、イメージです。

こうした関係は、「朝早く起きるために(目的)、夜は早めに寝る(手段)」、「行きたい大学に入るために(目的)、勉強をめっちゃがんばる(手段)」など、無数に考えることができます。

ただし、目的を達成するための手段については、上に挙げたもののほか、いろいろと考えることができます。

例えば、最初の「健康維持」であれば、「サプリメントを飲むこと」や、「定期的に健康診断を受けること」などといった方法も考えられます。

次のようなイメージです。手段が増えましたね。

また、朝早く起きるということが目的なのであれば、「寝る前にスマートフォンの画面を見ない」とか、「早起きしたら、自分にご褒美をあげる」などを手段とすることも考えられます。

さらに、「行きたい大学に入る」ということが目的なのであれば、「スポーツを頑張って、大学のスポーツ推薦をもらう」といった手段も考えられるのではないでしょうか。

逆に、手段からみて、目的の方が変わることもあり得ます。

例えば、ウォーキングやジム通いなどは、健康維持だけでなく、「ダイエット」を目的にして行われる場合もあるでしょう。

夜早く寝ることは、「夜に一日あった嫌なことを、あれこれと考えないようにするため」かも知れません。
勉強をめっちゃがんばることは、「新しい知識を得るため」や「忍耐力を付けるため」かも知れませんね。

法律のフレームワーク

このように、目的と手段の関係については、無数に考えることができます。

そして、ルールについてもこの目的と手段の関係性を見てとることができます。
つまり、法律(他のルールも同様です。)は、無数にある目的の手段の中から、特定の目的と特定の手段を選びだしたものの集まりとも言うことができるのです(ルールについては、以下の記事もご参照ください。)。

その証拠に、ここで、具体的に、災害救助法の第1条の条文を見てみましょう。もう、タイトル(「見出し」って言います。)に書いてくれてますね。

災害救助法

(目的)
第一条 この法律は、<災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、国が地方公共団体、日本赤十字社その他の団体及び国民の協力の下に>、<応急的に、必要な救助を行い>、<①災害により被害を受け又は被害を受けるおそれのある者の保護と/②社会の秩序の保全を図ること>を目的とする

※記号及びハイライトは筆者

多くの法律は、災害救助法のように、きちんとその法律の条文の中で、ルールが何を目的にしているのかを語ってくれています。
なお、大抵の法律の場合、目的は第1条に定められていることが多いです。

もっとも、民法や刑法など制定が古い場合は、定められていないこともあります。
そうした場合は、「民法 目的」などとググって(Google検索など)いただくのが早いです。
ただ、間違いがある場合もありますので(もちろんこのブログも同様です。)、定評のある法律の教科書を読まれることをオススメします。

さて、条文に話を戻すと、災害救助法において、その目的は、「災害により被害を受け又は被害を受けるおそれのある者の保護と社会の秩序の保全を図ること」と定められています。

つまり、①被災者(災害により被害を受けた者で、被害を受けるおそれのある者を含む。)の保護と②社会秩序の維持が目的ということになります。

また、手段については、「応急的に、必要な救助を行い」、つまり、応急的な救助活動を行うこととしています。
具体的には、みなさんもイメージする、避難所での炊き出しの提供などを想定しています。

さらに、1条には、どのような状況がある場合に、どのようにして、手段を実行するのかについても触れられています。
「災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、国が地方公共団体、日本赤十字社その他の団体及び国民の協力の下」というところです。
つまり、災害が発生し、又は発生する恐れがある場合に、国と地方公共団体(都道府県、市区町村)、日本赤十字社その他の団体、国民のすべてが、一致団結して応急救助を実施することが示されているのです。

災害救助法のフレームワークを先の日常のフレームワークに当てはめて図示すると、以下のようになります。

こうして、我が国の災害救助法は、①被災者の保護及び②社会秩序の維持を目的としています。
しかし、別の国では、目的②の社会秩序の維持のみを目的とし、被災者の保護は後回しにしているかも知れません。

この点、我が国では、社会秩序とあわせて、被災者の保護をルールに書き込むとともに、社会秩序よりも先に記載しています。
その意味では、ルール上からではありますが、あくまで被災者保護が第一義であるという姿勢まで、ルールから読み取ることができるのです。

さて、今回は、法律のフレームワークをご紹介しましたが、こうした思考方法(ないし思考パターン)はどの法律(ルール)にも当てはめることができます。

なお、目的をきちんと捉えることは、①ルールを解釈する上でも、②定めてある手段の効果を測定する上でも、とても大切になってきます。そのことについては、また別の機会で触れてみたいと思います。

次回は、手段としての「応急救助」について、具体的に、いかなるメニューが定められているのかについて、見ていくことにします。

具体的な話になりますので、是非、がんばって、一緒に学んでいきましょう。

参考文献

森田果(2020)『法学を学ぶのはなぜ?:気づいたら法学部、にならないための法学入門』有斐閣

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