【はじめてのルールづくり(3)】ルールづくりに必要なもの

なっちゃん

いよいよ本題に入っていきますね!

室長

ルールづくりに必要な知識について押さえておこう。

  1. ルールづくりには、ルールを必要とする理由(立法事実)から導かれるルールの目的が重要!
  2. ルールづくりに必要な知識として、①ルールのつくり方(法制執務)、②ルールの読み方(法解釈)及び③ルールの活かし方(政策法務・公共政策)がある。
目次

はじめに

ルールづくりには、どのような知識(ないしスキル)が必要なのでしょうか?

これは、なかなかに難しい質問です。わたし自身、正解を持っているわけではありません。

また、ルールづくりに関係する登場人物も、多く存在します。
なっちゃんのような、住民の方から、市役所などの自治体の職員。住民の代表である、市長や議員。その他、自治会やNPOなどが関係する場合もあるでしょう。
登場人物によって、必要とされる知識の範囲や深さ(レベル)には、それぞれ違いがあると考えます。

そのため、今回は、わたしがこれまでにたくさんのルールづくりに携わってきた中で、大切だと思っているポイントをご紹介しようと思います。

ルールの目的

前回お話ししたように、ルールというものは、目的(必要性)があってつくられます。

例えば、ある港町に悪い海賊が出入りするようになり、略奪などの被害で住民が困っていたという例で考えてみましょう。
悪い海賊のために、ある港町の住民の生命・身体や財産が危険にさらされている。住民の被害が出ないように(できる限り少なく)したい。
これは、切実な困りごとです。

こうした悪い海賊からの被害を防止するためにルールをつくるとしましょう。
目的は、悪い海賊からの被害を防止することにあります。

このルールをつくる目的というものは、後に述べる①ルールのつくり方(法制執務)、②ルールの読み方(法解釈)及び③ルールの活かし方(政策法務・公共政策)の全てに関わってきます。
そのため、わたしは、このルールの目的というものが、一番重要なものだと考えています。

STEP
困りごと

悪い海賊によって、住民の生命・身体や財産の危険がある(立法事実)

STEP
ルール作成

悪い海賊からの被害を防止する(目的)ためのルールをつくる(立法)

このルールを必要とする背景事情(専門的には「立法事実」といいます。)、つまり、ここでいう住民の困りごとというものは、実際に困っている人たちが一番良くわかっているわけです。

したがって、ルールづくりにあたっては、この困りごとをいかにして住民が伝えていくのか。あるいは、政治や行政の側がその困りごとに寄り添うのかという点が、良いルールの必要不可欠な条件ではないでしょうか。

住民から見ると、国や自治体が行う施策などで、どこかピントのズレたものを感じることもあるでしょう。
こうした場合の多くは、住民の困りごと、つまり、住民ニーズを十分に把握していないまま、ルールや制度をつくり、政策を推し進めてしまったのではないかと、わたし自身の経験を踏まえて思うところです。

ルールのつくり方

ルールづくりに必要な知識について、ルールづくりのお作法(専門的には、「法制執務」といいます。)というものがあります。

日本では、基本的には、法律などのルールの審査を担う内閣法制局が運用しているお作法にのっとって、具体的な条文などが作られます。

例えば、ある港町でルールの対象として、次のように定めたとしましょう。

ある港町のルール①

海賊とは、ルフィ及びナミ並びに黒ひげをいう。


ここでは、「及び」と「並びに」という用語を、お作法どおりに使い分けなければならないのです。
後の回で重要な点はご説明しますが、簡単に解説すると「及び」は小さい括り(グループ)を「並びに」はより大きい括り(グループ)を指す場合に使います。

ルフィとナミは、「麦わらの一味」(ルフィの仲間たち)なのでグループを作れますが、黒ひげは「麦わらの一味」ではありません。ただ、「海賊」という大きな括り(グループ)には入ります。
そこで、小さなグループ(麦わらの一味)には「及び」を用い、大きなグループの中では「並びに」を用いるのです。

えっ、難しい?面倒?

確かに、面倒ではあります。また、ルールのつくり方のお作法は、自治体の職員さんなどが詳しいので、市民の方はいろいろとサポートしてもらえば良いと思います。
※ただし、役所の職員さんも全ての方が詳しいわけではありません。「法制執務のご経験がありますか?」などと聞いてみましょう。

ただ、ルールのつくり方のお作法は、ルールの内容を正確に伝えるために必要なお作法(テクニック・スキル)です。
先の例で「海賊とは、ルフィ、ナミ及び黒ひげをいう。」とか、「海賊とは、ルフィ並びにナミ及び黒ひげをいう。」としてしまうと、前者は黒ひげを含めてみんな並列な海賊というグループにしかなりませんし(麦わらの一味の関係性を示せない。)、後者ではナミと黒ひげがグループになってしまいます(原作と違っちゃう!)。

また、ルールの作り方のお作法は、ルールを正確に読み解くための大前提でもあります。
知っておくと、難解だと思っていた契約書などが正確に読めるようになったり、いろいろとメリットがありますよ。

ちなみに、弁護士など法律家の方でさえ、ルールの作り方のお作法について、「所詮、てにをは(取るに足らないお作法)でしょ」と言われる方もいらっしゃいます。
でも、ルールのつくり方のお作法は、先に述べたように、正確にルールを読めることにもつながります。こうしたメリットにも、ぜひ目を向けていただきたいと思います。

さて、このルールのつくり方のお作法は、ルールの目的によって影響を受けることになります。
ある港町のルールの目的は、悪い海賊からの被害を防止することでしたよね。
ここでは、便宜的に、麦わらの一味(ルフィとナミ)を良い海賊、黒ひげを悪い海賊とさせてください(実際には、黒ひげには黒ひげの正義があると思いますが、ひとまず脇へ置いておきます。)。

良い海賊悪い海賊
ルフィ及びナミ黒ひげ

そのため、ルールでは、「海賊とは、黒ひげをいう。」というように「悪い海賊=海賊」と決めたり、「悪い海賊とは、海賊のうち黒ひげをいう。」というように「海賊」の中に「悪い海賊」という新たなグループをつくるなど、ルールの目的に具体的なルールの内容を合わせていく工夫が必要となります。

少し、テクニック的なところがあるので、ここでは、「ふ〜ん」くらいに思っておいていただけたらと思います。

ルールの読み方

次に、ルールの読み方のお作法をご説明します。

ここで言う、ルールの読み方は、単に日本語として読むことにとどまらず、具体的な事例に沿って、ルールが意味しているところを読み解くこと(法解釈)を含みます。

抽象的な説明だとわかりにくいので、ここでもある港町の例で説明させてもらいましょう。
仮に、次のルールがあったとします。

ある港町のルール②

海賊は、港町に出入りしてはならない。

ある港町にルール②だけがある場合(ルール①は無いものと考えてください。)、麦わらの一味(ルフィやナミ)は、港町に入ることができるでしょうか?

逆に、黒ひげは、出入りしてはダメってことは比較的に分かりやすいと思います。

ルールには、明確に書いてありませんよね。
ルフィが「海賊王に俺はなる!!」と言っているくらいですから、出入りはダメなのでしょうか?

ここでも、大切なのは、このルールを定めた目的となります。
ルールの目的は、悪い海賊からの被害を防止することにあったのですよね。

そうすると、良い海賊、つまり、麦わらの一味は港町に入っても、住民に被害が出るおそれは低いと言えます。
したがって、目的を考えると、このルールで言う「海賊」は「悪い海賊(黒ひげ)」に限定するべきではないかと、ルールを読み解くことができるのです(ルールの目的を踏まえて、ルールの対象を狭く捉える解釈です。)。

したがって、麦わらの一味は、この港町に出入りすることができるという結論が導かれます。
もちろん、ルール目的が良い海賊も含めて、ある港町への出入りを禁じることにあるのであれば、このような解釈はできません。
つまり、目的によっては、麦わらの一味は、ある港町に出入りできたり、できなかったりするということです。

ちなみに、このルールの目的に沿って、具体的なルール(条文)を解釈するスキル(専門的には、目的論的解釈趣旨解釈と言われます。)は、法律学を学ぶ上で一番大切なスキルだと思っています。
そして、個人的には、司法試験も結局のところ、このスキルが最低限身についているのかどうかを見られているに過ぎないと考えています。

ここで、読者の中には、先程、悪い海賊を定義したりする場合と、解釈によって、悪い海賊を除いてしまう場合と何が違うの?と混乱されている方もいらっしゃるでしょう。
つまり、A)ルールに書き込むことで限定するのか、あるいは、B)読み解く方法(解釈)で結論を導くのかという違いです。

これは、ケース・バイ・ケースで判断すると言わざるを得ません。
一応の区別として、一般的に、刑罰などを課す場合などは、あらかじめ、その内容を厳格に定めておく必要があると言われています。
他方で、いろいろと複雑な事例が想定され、その全てをルールの中で書ききることができないような場合は、抽象的な定め方にとどめ、ルールを読み解こと(解釈)や運用によって対応することが多いと考えられます。

ルールの活かし方

最後に、ルールの活かし方についてご説明します。ルールは定めるだけでは不十分で、きちんとルールが活躍しないといけないということです。

先程の「ある港町のルール②」を考えてみてください。

確かに、悪い海賊が港町に出入りすることが無くなれば被害は防げるでしょう。
しかし、悪い海賊、例えば、黒ひげのような海賊が、そもそもこのルールを守ると思いますか?

おそらく、NO!ですよね。悪い海賊としては、「オレの知ったこっちゃない」と言うでしょう。
つまり、ルールは定めたのだけれども、目的を果たせない(実効性がない)ものとなってしまいかねません。

では、どうすればよいのでしょうか。
これは、ルールを手段として目的達成を考える「政策法務」や公共政策における手段選択の議論にもつながりますが、どうしたら、目的を達成することができるのか、ルールを活用する手段についての知識も必要となります。
なお、現実には、ルールの効果を測定することがなかなか難しいので、ルールの活用法まで検討されるケースは少ないように思われます。

ここでも、ルールの目的が重要となってきます。何度も繰り返して恐縮ですが、ルールの目的は悪い海賊による被害を防止することにありましたよね。
そうだとすると、ある港町の例では、例えば、次のようなルールにしてはいかがでしょうか?

ある港町のルール③

悪い海賊を制圧した者には、懸賞金として39億9600万ベリーを支払うものとする。

つまり、ルール無視の海賊が港町へ出入りすることを禁止するのではなく、違うアプローチ、悪い海賊を誰かに制圧してもらうインセンティブ(ここでは、お金)を働かせる方が目的達成との関係で効果的だと考えるのです。

そのほかにも、いろいろと目的を達成するための手段(方法)が考えられると思いますので、みなさんも、いろいろとアイデアを考えてみると面白いかもしれません。

まとめ

以上のように、ルールづくりに必要とされるものには、様々なものがあります。

でも、一番重要なことは、冒頭に申し上げたとおり、ルールの目的をはっきりと明確にすることです。
そして、ルールの目的の多くは、国民あるいは市民である、みなさんのニーズにこそあります。

ですので、まずはしっかり自分たちの困りごとを把握すること、そして、その困りごとを周りの人に伝えていくことからはじめてみてはいかがでしょうか。

ルールづくりは、一人ではできません。麦わらの一味のように、それぞれ得意なスキルを持つ仲間と一緒に、目的達成を目指していただけたらと思います。

なっちゃん

イラストやさんとワンピースのコラボすごい!!

室長

印象に残ったのそこですか、、、
まぁ、ワンピースには敵いませんよね。

参考文献

芦部 信喜 (著)・高橋 和之 (補訂)(2023)『憲法[第8版]』岩波書店

補論(ワンピースと法教育)

わたしなどが説明するまでもないことですが、「ONE PIECE」(ワンピース)は、作者である尾田栄一郎先生が週刊少年ジャンプに連載している日本を代表する漫画です。累計発行部数は、5億部を超えて、ギネス記録にもなっています。

わたしが、ワンピースに出会ったのは、ロースクールで社会人学生をしていたころ、法教育サークルに所属し、中学生や高校生に法の考え方(正義や公平)を教える取組をしておりました。

中学生や高校生に興味を持ってもらうために、共通の話題をつくろうと、お勧めされたワンピースを手に取ったのがはじめてです。

今回登場した「ナミ」をはじめ、「ゾロ」、「ウソップ」、「サンジ」、「チョッパー」、「ロビン」などなど、仲間が一人加わるごとに、中年のおっさんが号泣させられたことを思い出します(笑)。
話題作りのために読み始めたら止まらなくなって最新刊まで「大人買い」しました。

全巻読破した甲斐もあって、実際の出前授業では、ルフィの義兄弟である「エース」の最後の闘いで高校生と盛り上がりました。

今回もまたワンピースに助けてもらいました。
今年は、Netflixで実写ドラマ化もされて、「実写=大コケ」の定説を覆しています。
ますます盛り上がりを見せるワンピースの世界に目が離せないですね。

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