室長ぉ〜! ルールづくりをまかされちゃいました。
でも、わたしやったことないよ〜?
わたしの新卒のころを思い出すねぇ。
まずは、ルールの基本を押さえよう!
- わたしたちの身の回りにはルール(法律)がたくさん!
- ルール(法律)と倫理との違いは、強制されるかどうか!
- SDGsなどが大切なエシカルな時代はルール(法律)を守っているだけじゃダメ!
身の回りにある様々なルール
わたしたちが暮らしていく中で、特にルール(法律)を意識することは通常ありません。学生時代の「廊下は走るな」といった校則とは違いますよね。
ルールは空気のように存在して、ときどき、ひょこっり顔を出します。
ちょっと、Aさんの日常の一コマをのぞいてみましょう。
- 眠たい目をこすりながら、下宿しているアパートを飛び出して急いで駅へ向かう。
- 昨日はサブスクで大好きな『オススメの子』を一気見したから寝坊してしまった。反省。
- 通勤電車でもみくちゃにされながら、1時間かけて都内のオフィスへと向かう。
- 寝坊したから朝食も食べていない。お腹空いたなぁ。職場近くのコンビニで、とりあえずジュースと菓子パンでも買おう。
- あっ、財布を家に忘れてきたことに気づいた、、、
Aさんの日常には一言もルールや法律といったコトバは出てきません。
仮に3Dメガネのように、「法的なものの見方ができるメガネ」があったとしましょう。
それをかけてみると、Aさんの日常は、ルールと密接に関わっていることがわかります。
①下宿しているアパートは、Aさんが借りているもので、大家さんと賃貸借(ちんたいしゃく)契約を結んでいます。
最近は少なくなりましたが、TSUTAYAなどでDVDを借りるのも賃貸借契約を結んでいることになります。
この場合Aさんが簡単に追い出したりされないように、特別なルールで守られています。
②Aさんは「オススメの子」を視聴するために、サブスク(サブスクリプション)を提供する会社と利用料金を支払うことで一定期間サービスを利用できる契約を結んでいます。
そこでは、サブスクの利用に関するルールで月額の利用料金などが定められています。
継続的に利用料金が発生することもあって、消費者であるAさんを守っているルールが多く存在しています。
③都内キャンパスへ向かうため、Aさんは電車を利用しています。AさんはICカードをかざすだけのように見えますが、法的にみると、鉄道会社と「旅客運送契約」というものを結んでいることになります。
鉄道は市民の移動手段として重要なものです。そのため、鉄道会社が料金を上げる場合に国の認可を必要とするなど、鉄道利用者を守るためのルールが定められています。
④コンビニでジュースなどを買うことは、法的には「売買(ばいばい)契約」と言われます。市民の基本的ルールである民法にルールが定められています。
こうして、Aさんの日常生活の一コマを切り取るだけでも、Aさんの周りにはたくさんのルールが存在していることがわかります。
特に、数多くのルールがAさんを守るために存在していることがわかります。
ただ、体感的には、ルールを堅苦しく感じている人や抵抗感を持っている人の方が多いのではないでしょうか。実際、日常生活でわれわれを守ってくれているようなルールの存在はあんまり意識することはないですよね。
ルールと倫理の違い
このように、意識するとしないとにかかわらず、われわれはルールに囲まれて生活をしています。
Aさんの話の続きを考えてみましょう。
のどがカラカラだけど、あいにくお金を持ち合わせていない!でも飲みたい!!今すぐ飲みたい!!!
そんなとき、勝手にジュースを飲んではいけないのは、なぜでしょう?
感覚的に「人」としてやってはいけないことだということは、なんとなくわかります。
子どもでも人のオモチャを勝手にとってはいけないことはわかります。でも、なぜ?
いろいろな答えはあると思います。
ただひとつのシンプルな答えは、「ルールに違反するから」というものでしょう。
つまり、勝手にお店のジュースを飲むことは刑法というルールの中で「窃盗罪(せっとうざい)」に当たります。
刑法は市民がやってはならないこと(犯罪)と、もしやってしまった場合のペナルティ(刑罰)を定めた基本ルールです。
すなわち、「人のものを盗んではならない」というルールに違反することになるのです。
では実際のルールを見てみましょうか。刑法235条です。あ、眠くならないで!
(窃盗)
第235条 他人の財物を窃取(せっしゅ)した者は、窃盗(せっとう)の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
条文では書いていませんが、大前提として、他人のものを盗んではいけないというルールがある。
だから、他人のものを勝手に盗んだら、刑務所に最長10年間、最大で罰金50万円払うことがあると定められているのです。
まとめると、ジュースを勝手に飲むことは、①「人」としてやってはいけないし、②刑法というルールにも違反する。
だからダメなんだということは言えるかなと思います。
この場合、「人」としてやってはいけないことと、守るべきルールはイコールです。
でも、「人」としてやってはいけないことと、守るべきルールがイコールでないときはどうするのでしょう?
そんなことあるの?
あります!人間だもの。
人間の本質的な欲求、「愛(LOVE)」がありますね。これに関連します。
はい。お察しのとおり「不倫」です。「人」としてやってはダメかは議論ありますが、一応常識的にはダメなことと考えられています。
でも、不倫は窃盗罪のように犯罪ではありません。刑法を読んでも「不倫してはならない」とは書いてありません。
もちろん、民事的には不倫された側から不倫した側へ損害賠償請求などがされることはあります(詳しくは、「不法行為 不倫」でググってみてください。)。
繰り返しますが、不倫は犯罪ではないのです。ここにルールと倫理との違いがあります。
ジュースを勝手に飲めば刑法というルールに違反し、刑罰が科されます。
他方で、不倫は社会的に非難はされますが刑法というルールに違反しません。したがって、刑罰も科せられません。
以下の表を見てください。
倫理に違反するか | ルールに違反するか | 刑罰が科されるか | |
ジュースを勝手に飲む | ◯ | ◯ | ◯ |
不倫する | ◯ | ✕ | ✕ |
刑法というルールに違反する場合は、刑罰がセットとなっています(赤囲みの部分)。
刑罰は国家権力によって科されます。
このことをとらえて、ルールと倫理との違いは、「国家による強制力があるかないか」とよく言われています。
エシカルな時代に大切なこと
でも、実感と違うなぁと多くの方は思っているのではないでしょうか。
わたしも同感です。
例えば、週刊誌に不倫がスクープされた芸能人を思い浮かべてください。
謝罪会見でマスコミにめっちゃ責められますし、決まっていたドラマ番組やCMは降板。社会的に抹殺されて表舞台を去っていくケースは山ほどありますよね。
今の時代、ルールに違反しなくとも、倫理的な問題があると、社会的に厳しい批判にさらされます。
他方で、ポジティブな例もあります。最近、SDGsやカーボンニュートラルなど、持続可能性のあるエシカルな世の中を目指す動きが加速しています。
こうした社会情勢の変化で、単に企業はルールを守っていれば良いという時代では無くなっています。
直接的には利益には結びつかないような、社会貢献活動や環境への取組を行うようになり、企業に投資する投資家、お金にまつわる(財務情報)以外の社会貢献・環境配慮行動(非財務情報)を重視するようになっています。
つまり、企業が守るべきルールの範囲を飛び越えて、地球環境を守ったり、社会貢献をしたりと、ルールの範囲を超えて、地球・社会に良いことをしようとする動きが強まっているのです。
先ほど、ルールと倫理との違いを説明しましたが、これからの時代は、ルールと倫理がより近づくことが予想されます。
この点をとらえて倫理を「人間が社会の一員として守るべきルール」と定義する本もあります(柘植尚則「プレップ倫理学[増補版]」)
柘植先生はさらに、「ルールを守ることで、ある種の生き方をすることにほかなりません。」として、ルールは生き方にもつながると述べられています(前掲書)。
これからの時代、単にルールを守っているだけでは取り残されてしまう可能性があります。
例えば、ルール以上に社員のウェルビーイングを良くするとか、ルール以上にCO2排出を削減しているといったように、ルール以上の倫理観をもって行動する人や企業が評価され、より多くの利益を享受する時代に突入しているように思われます。
これから学んでいくルールづくりは、法律の枠組みを前提にしますが、倫理や生き方にも影響を及ぼすものであることは、是非覚えておいていただきたいです。
これからの時代はルールを守っているだけではダメなんですね!
新しい時代にふさわしいルールづくりが必要ですね!
柘植尚則『プレップ倫理学[増補版]』弘文堂、2021年