【はじめてのルールづくり(8)】条例と法律の守備範囲〜観る将的攻略指南〜

室長

今回は、条例と法律の守備範囲について考えていきましょう。
藤井聡太竜王・名人にあやかって、駒の動かし方を用いた説明にチャレンジしてみます。

なっちゃん

条例(地方のルール)もいろいろと、活躍の場がありそうですね!
私も、abema の「将棋チャンネル」が大好きな「観る将」です!!

目次

設例

前回は、条例の特色について、法令(国のルール)と比較してご説明してきました。

今回は、全国的な国の法律がある中で、条例は、どこまでルールを定めることができるのかという、条例の守備範囲について考えていきます。
この点は、なっちゃんが目指す、コミュニケーション条例の制定にも関連する、「ルール作りの基本」となる知識です。

それでは、今回は、具体的な事例を通じて考えていきましょう。

設例>

国は、「2050年のカーボンニュートラル・脱炭素社会の実現」のため、地球温暖化に影響のあるとされる、物質Aの排出を100XX(架空の単位)以下に制限するルール(XX規制法)を作りました。

1.鳥松市では、SDGsに熱心に取り組んでいることから、国の基準よりも厳しく物質Aを取り締まりたいと考えている。この場合、物質Aの排出基準100XXより厳しい50XX以下にすることは可能でしょうか。

2.物質Aではなく、物質BやCについて、100XX以下にすることは可能でしょうか。

いかがでしょうか。ちょっと、ロースクールっぽいですよね。

でも、なっちゃんたちも、
まず、①作ろうとするルール(条例)が法律や条例として、既に存在しないのか。
②無い場合でも、果たして、ルールを作ることが可能なのかについては、事前に必ず検討しなければなりません。

そもそも、①ルールがあれば、特に定める必要は乏しいでしょう(確認的に作る場合もあります。)。

また、②の点で、法律(国のルール)と条例(地方のルール)の守備範囲が問題となります。

憲法では、「地方公共団体は、(中略)法律の範囲内条例を制定することができる。」(第94条)としています。

また、地方自治法では、「普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる。」(第14条第1項)としています。

そのため、いかなる場合が「法律の範囲内(であって、法令に違反しないのか)」について、理解しておくことが重要になります。

なお、法律と地方のルールの区別が曖昧な方は、こちらで復習しておきましょう。

最高裁判所の判断基準

その判断基準を示したのが、最高裁判所の徳島市公安条例事件判決になります。

ここで、なぜ、「最高裁判所」の判断基準が重要なの?と思われた方もいらっしゃると思います。

「内閣総理大臣(岸田さん)か、誰か他の人が決めてもいいじゃん?」と。

詳しくは、憲法の本などで理解していただきたいのですが、簡単に触れておきます。

そのアンサーとしては、憲法というルールに、「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」(第81条)と定まっていることが理由となります。
つまり、最高裁判所に憲法が定めている「自治体は法律の範囲内で条例を定めて良い」というルールのジャッジを委ねているからということです。

それでは、最高裁判所の判断を見ていきましょう。

最高裁判所は、徳島市公安条例事件で次のように示しています。

最高裁判所の判断基準

「条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによってこれを決しなければならない。」

で、「ちょっと何言ってるか分からない。」

はい。わたしも初見はそうでした。。。

詳細には、高校時代のチャート式のように、樹形図なんか書いて理解することになります。
正確な理解については、末尾にある参考文献の大先生が書かれた教科書等を読んでいただくとして、ルールづくりに必要な範囲で、ざっくり次のように理解しましょう。

観る将的攻略の3パターン

私のご提案するのは、3パターンに分けて考えることです。

藤井聡太竜王・名人(2024年2月10日現在)による将棋人気にあやかって、将棋の考え方を用いてご説明します(まぁ、わたしは観る将で駒の動かし方くらいしかわからないのですが、、、)。

「条例をつくりたい!」と思った時には、次の3つのパターンに分けて、法律の守備範囲を考えてみてください。

条例と法律の守備範囲

①ジャイアンパターン
②上乗せOKパターン
③横出しOKパターン

①ジャイアンパターン

まず、わかりやすい、①ジャイアンパターンのイメージ図をご覧ください。

赤矢印は、国の法律の守備範囲を示しています(将棋で言う、「王将」の駒の動きですね♪)。

この場合は、すべての方向性で法律が対象としており、条例を定める余地がありません。

つまり、「俺のものは俺のものお前のものは俺のもの(条例に決めさせてあげない)」的に、条例の出る幕はないのです。

設例で、XX規制法の目的や趣旨などが、①ジャイアンパターン(全部法律に任せろ、さらに厳しくする規制も、他のBやCの物質の規制もダメと言う趣旨)だとすると、条例を定ても、それは違法(憲法違反)とされ、無効となります。

※なお、多くの方は、「ジャイアン」についてよくご存知だと思いますが、一応解説しておくと。
藤子・F・不二雄先生の国民的漫画『ドラえもん』に登場するキャラクターの一人で、本名は剛田武。あだ名が「ジャイアン」という、ガキ大将的キャラクターです。

テレビ朝日HP:ドラえもんと仲間たち

もちろん、わたしもジャイアン、特に、劇場映画版での頼りになるジャイアン!!
そして、きれいなジャイアン(知らない方は、ググりましょう!一見の価値あり!)のファンであります!

②上乗せOKパターン

次に、②上乗せOKパターンです。

イメージ図をご覧ください。青丸のところが、条例の守備範囲となります。

設例において、XX規制法の目的や趣旨などが、「各自治体が環境保護のため、物質Aの規制について、さらに厳しく規制するのはOK」ということであれば、鳥松市で50XXという国のルールよりも厳格な基準を設定し、条例を定めることは可能です。

こうした条例を「上乗せ条例」と言ったりします(100XX以下という基準を上回る規制をしていますよね。)。

③横出しOKパターン

最後に、③横出しOKパターンです。

こちらも、イメージ図をご覧ください。

設例で、XX規制法の目的や趣旨などが、「A物質については、法律の基準以外は認めない。でも、環境保護のため、他の物質BやCを独自に規制するのはOK」ということであれば、鳥松市で物質BやCを規制する条例を定めることは可能となります。

こうした条例を「横出し条例」と言ったりします(対象が横(BやC)に広がっているイメージです。)。

以上の3パターンの組み合わせなどもあります。
ただ、基本的に、3つのパターンに分けて考えると、スッキリするのではないでしょうか。

要するに、最高裁判所の判断基準は、規定の文言だけ見るのじゃなくて、法律や条例の守備範囲をその目的や趣旨などを踏まえて、しっかり守備範囲をそれぞれが守っているのか見極めなさい、って言っているとわたしは理解しています。

なっちゃんも、「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律」などコミュニケーションに関連する法令などの趣旨・目的を考えながら、条例が鳥松市に本当に必要なのかなどを、考えていく必要があるでしょう。

さて、今回は、条例と法律の守備範囲について、藤井聡太竜王・名人にあやかって、将棋を用いて、一緒に学んでいきました。
次回は、守備範囲を考慮して制定された条例が、国の法律をも動かす場合もあることについて、考えていきたいと思います。

参考文献

・北村喜宣(2020)『環境法[第5版]』弘文堂

・木村草太「判批」高橋和之・長谷部恭男・石川健治編(2007)『憲法判例百選Ⅱ[第5版]』有斐閣,pp484-485

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