【はじめてのルールづくり(6)】ルールの種類(2)

なっちゃん

「憲法」、「法律」、「条例」、、、
ルールの種類がたくさん!!混乱しそうです。

室長

大丈夫。ルールの優先関係から整理してみましょう。

目次

ルールが矛盾することはあるの?

前回は、ルールには、さまざまなものがあるということをご説明しました。
今回は、こうしたさまざまなルールの優先関係について見ていきます。

例えば、あるAというルールでは「◯◯という行為をしたらダメ」と禁止されている場合に、別のルールBでは「◯◯という行為をしても良い」と書かれている場合(つまり、お互いのルールが矛盾する場合)は、我々としては、どのように考えていけば良いのでしょうか?

え、ルールが矛盾しちゃう場合があるの?と思われるかも知れません。

でも、例えば、国と地方では、ルールを制定する人たち(国会なのか、自治体の議会なのか)違います。前回見たように、膨大な数のルールがある以上、すべてを把握することは難しいですから、矛盾が生じてもおかしくありません。

また、時代によって、社会の価値観が変化し、ルールの意味内容が変わってくることによって、当初は矛盾のなかった関係が変化する場合もあり得ます。

例えば、父子関係の混乱を防止するため、民法(旧民法733条第1項)では、以前は、女性は6か月の再婚禁止期間というルールを定めていました。
ところが、DNA鑑定など科学技術の進展とともに、父子関係を明らかにする手法が発達していきました。
そこで、最高裁判所は、最低限の重複を防止する期間(100日間)を超えて女性の再婚を禁止するルールは、憲法が定める「法の下の平等」という価値観を定めるルール(憲法第14条)に違反すると判断しました(2015年12月16日最高裁判所大法廷判決)。

こうした、ルール相互間の関係を、「効力関係」といいます。要するに、「ルールの優先関係」(どちらを優先するのかという関係)だと思ってください。

まず、結論から見てしまいましょう。次の図をご覧ください。

学生時代に学んだ食物連鎖のピラミッドに似ていますよね。
簡単にいうと、優先度の高い(効力の強い)ルールの順番は、「憲法」>「法律」>「条例」となります。

つまり、国の「法律」は「憲法」と矛盾するルールを定めてはいけません。
また、自治体の「条例」は「法律」と矛盾するルールを定めてはならないのです。

では、最初の質問に戻りますが、ルールが矛盾したら場合、どのようになっていくのでしょうか。

例えば、先の最高裁判所で、民法の一部のルールは、優先する憲法のルールと一部矛盾するルールであるとの判断がなされました。この場合の効力(違憲判決の効力)をどのように考えるかは、一つの論点です。

ただ、現実的には、民法のルールは、最高裁判所が示した判断を国会も尊重し、優先されるべき憲法の価値観を重視して、再婚禁止期間が「6か月」から「100日間」に短縮される民法のルール変更が行われました。

つまり、優先関係に沿った処理がなされたということになります。

ルールの優先関係の理由は?

大切なのは、ルール間に、なぜこのような優先関係が付いているのだろうかという点です。

単に、優先関係を覚えてください!!という話なら、受験勉強の丸暗記と変わらないことになってしまいます。
法学をはじめ、学問の楽しさって、「なぜだろう?」と探求することにあると思うのです。

そして、ひと手間かけてやることによって、自分なりの理解ができれば、暗記する手間も減ると思うのです。
学生時代、解けなかった数学の問題が解けたり、プログラミングしたものが、エラーなく動いたときの快感のようなものでしょうか。
あ、おじさんなので、説教くさくなりました、、、

また、結論から言ってしまうと、優先関係は、関与する人の多さに由来するものと考えられます。

ルールをつくる場合は、基本的に、ルールを変更する手続(改正手続)を取ることになります。
そのため、改正手続にどれだけの人が関与するのかを比較してみましょう。

つまり、改正の要件は、それぞれ、次のようになります。

種類改正に必要な条件根拠
憲法衆議院・参議院の総議員2/3以上の賛成+国民投票で過半数の賛成憲法第96条第1項
法律衆議院・参議院の出席議員の過半数で議決憲法59条第1項、56条第2項
条例地方議会の出席議員の過半数で議決地方自治法第116条第1項

ここでは、細かい条件を覚える必要は、全くありません。

要するに、
憲法=国民の代表である国会議員のほとんど+国民の大半が直接的にルールにOK
法律=国民の代表である国会議員の大半がルールにOK
条例=住民の代表である地方議員の大半がルールにOK

しているってことになります。

そもそも、法律や条例は、国会や地方議会で、選挙で選ばれた我々の代表がルールを検討して、OKするから、我々みんなで決めたことになるというタテマエが取られています。

さらに、憲法では、そうしたタテマエを超えて、もう一度、我々国民に対し、再度国民投票という形で、「ほんとに、このルールで良いの?」って投票する機会を与えます。

それだけ、慎重な手続をして、なおかつ、国民の大半がルールにOKを出しているからこそ、国のルールで一番強い効力を与えられていると考えられます。
比喩的にいえば、ルールにOKを出した人が多ければ多いほど、優先度が高くなると考えても良いでしょう。

また、憲法に関しては、国民の権利や権力を縛るルールという、ルールの内容がとても大切です。そのため、国のルールで一番強い効力が与えられているという説明もされることを補足しておきます(「実質的最高法規性」といいますが、詳しくは、憲法の教科書などをご参照ください。)。

他方で、法律(国のルール)と条例(地方ごとのルール)も、対象とする範囲や関与する人の多さが違います。
例えば、鳥取県で決められたルール(条例)を、東京都の人が守らないといけないというのは、東京都の人が(代表者を通じて)関与する機会がなかったので、「そりゃおかしい」、ということになるでしょう。

逆に、「法律」は、全国民の代表である国会で作られたルール(法律)だから、鳥取県の人も、東京都の人も、みんな守るべきだ(ルールに関わる機会があったでしょ!と言われるわけです。)ということになりそうです。

では、「条例(地方のルール)」は、優先関係も低いし、対象となる人や空間も狭い(都道府県だけ、市町村だけ)のに、果たして、定める意味はあるのでしょうか?

次回は、そうした疑問に対し、「条例」の役割と「法律(国のルール)」との関係を見ていきたいと思います。

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