【市民のための法律講座(5)】災害救助法(2)〜法の仕組みを理解する意義〜

佐伯さん

災害救助法における救助は、①誰が、②どのような災害が発生したときに、③どのような方法で行われるのでしょうか?

室長

前回は災害救助法の目的について検討しました。
今回からは、災害救助法の仕組みについて見ていくことにしましょう。

目次

応急修理とは

前回、災害救助法の目的は、①被災者の保護と②社会秩序の維持にあること、そして、救助の中心となるのは、被災者の衣食住であることをご説明しました。

では、こうした救助について、①誰が②どのような災害が発生したときに③どのような方法で、行うのでしょうか。

まず、みなさんにイメージしやすいものから、③の「どのような方法で」というところからご説明したいと思います。
例えば、災害救助法の救助の一つに、「応急修理」というものがあります。

応急修理は、自宅が一定の被害(大規模半壊、半壊又は準半壊)を受けた世帯に対して、被災した住宅の屋根、居室、台所、トイレ等日常生活に必要な最小限の部分を応急的に修理するものです。

その目的は、元の住家に引き続き住むことができるようにするためのもので、衣食住の「住」に関する救助に該当するものです。

我々一般市民にとって、先に挙げた「応急修理」など、被災時に受けることのできるサービスを知っていること自体はとても大切なことです。
「え、そんな制度あるの知らなかった。利用できるならば利用したかった。」という方が非常に多いですから。

では、もう一歩進んで、サービスを「知っていた」として、そのサービスが「実際に使えるか」について考えてみましょう。
例えば、テレビに録画機能があることを知っていても、録画機能を使いこなせるかどうかはまた別であることと同じ問題です。
ここでは、例に上げた「応急修理」の利用に関して、次の事例を考えてみましょう。

応急修理の事例分析

応急修理に関する事例

Q1:台所やトイレなど水回りの修繕が急務であったため、応急修理を居住する市役所(被災自治体)に申し込みをする前に、自ら業者に依頼して修理をしてもらいました。既に修理は完了し、費用の20万円は支払い済みです。
この場合、自ら業者に支払った20万円の立て替え払いを「応急修理」として受けることができるでしょうか。

Q2:応急修理による救助を受けましたが(既に修理済)、今後の余震などが不安になり、応急仮設住宅への入居を希望するようになりました。
この場合、応急仮説住宅に入居することができるでしょうか。

事例で取り上げた問題は、法律相談で実際に寄せられることが想定されるものです。
Q1・Q2のいずれも、「できない」とご回答することになると考えます。

なぜでしょうか?

Q1について

前回ご説明したように、災害救助法における救助は、支援を確実に行うため、現物給付でなされることが原則です。
つまり、この原則に従うと、救助は「現物=モノ」で行われる必要があります。

そして、応急修理も「カネ」ではなく修理業者による工事という「モノ(修繕というサービスの提供)」で行われなければならないとと考えるのです。

そのため、応急修理を利用するためには、修理に先立って被災自治体の窓口へ申し込み、被災自治体が修理業者に依頼して修理をしてもらい、被災自治体より修理費用を支払うことになります。

具体的なフローは次のとおりです。

Q2について

応急修理の目的は、先に述べたように、元の住家に引き続き住むことができるようにするためのものでしたよね。
そうすると、応急修理が行われることによって、一応、元の住家に引き続き住むことができることになるはずです。

そのため、応急修理を利用した場合は、元の住家に引き続き住めるのだから、応急仮設住宅の利用はできないという理由で、その併給はできないと理解されています。
※この点については、まだ修理代金をすべて支払っていない場合は、変更契約するなど、救済される方法はあります。

法の仕組み(メカニズム)を理解する意義

将来を予測し、法を活用する

いかがでしょう。支援制度を「知っている」ことと「実際に使える」ということは違うし、後者はよりハードルが高いということがお分かりいただけたでしょうか。

いずれの事例の結論も知識として覚えておくことはできるかも知れません。

しかし、こと「応急修理」に限ったとしても、以下の石川県ホームページのリンク先にあるQ&Aのように、救助を実際に利用するまでには、様々な問題(気をつけるべき点)があり、それを逐一、知識として覚えておくということは不可能ですし、その必要もないでしょう。
そうした知識は、役所や弁護士などの支援者が把握していればよいと思われます。

石川県ホームページ

ただ、自然災害が多いと言われる我が国において、いつ被災者になるか分からない我々としては、どのようなサービスがあって、実際にどのように活用すれば良いのかという点について、もう少し知る機会があっても良いかも知れません

例えば、災害救助法の基本的な考え方としての「現物給付の原則」「応急修理の目的」というものについて、平時に少しでも理解しておけば、いざ被災した際に、自らの判断でおおよその予測が付く可能性はあります。
災害の混乱した状況の中で、役所など情報源へのアクセスなどが困難であることは、明らかです。

例えば、「災害救助法は『モノ』で支給が原則だから、『カネ』(建替払)は無理じゃないかな?」とか、
「応急修理というサービスは、元の住家に住み続けることが目的だっけ。それなら、元の住家に住めない人を対象にする応急仮設住宅を利用できるんだっけ?」などといった具合です。

もちろん、正確な答えを導くことは難しくても、被災時において、少しでも先を予測して、行動を選択できること(損失を回避できること)がとても重要ではないかと思うのです。

Q1では、端的に20万円を別のものに当てることができたでしょうし、Q2では、不安を抱えて自宅に住み続けるよりも、一度、仮設住宅に入ったほうが良い場合もあるでしょう。

法の改善

さらに言えば、法の仕組みを知っていることは、その法制度自体が妥当なのかという制度の見直しについても役立てることが可能であると考えられます。
例えば、事例で言えば、応急修理について立替払が認められない結果について妥当なのか、ということを議論するということです。

すなわち、一見、Q1で立替払が認められないことは、被災者の方にとって酷であるようにも思われます。
しかし他方で、それを認めてしまうと、資金のある人(手許現金のある人)は、資金のない人に先んじて応急修理を認めることにもつながるおそれもあります。
そのことは、被災者間の不平等にもつながり、「支援を確実に行う」ことを目的とする災害救助法になじまないとの反論をすることも可能でしょう。

こうして、制度の仕組みを知ることは、①将来を予測することで法を活用し、②現状を批判的に検討し、法を改善していくためにも必要であると考えられるのです。

今回は、災害救助法の救助において、③どのようにして支援が行われるのかに関して、法の仕組みを理解する意義をご説明しました。
次回は、①誰が、②どのような災害が発生したときに救助を行うのかについて、災害救助法の仕組みを引き続き見ていきたいと思います。

参考文献

第一東京弁護士会災害対策委員会編(2023)「災害法律相談Q&A」勁草書房

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