日本経済新聞・私見卓見 2023年8月10日朝刊掲載

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住民参加のルールづくりを

今年の統一地方選では、多くの選挙で投票率が過去最低を更新した。地方自治において、選挙が民意を反映させる重要な手段であることはいうまでもない。しかし、選挙は基本的に数年に一度の機会にとどまる。また、投票行動が自治体の施策へどのように反映されるかの影響も見えにくい。

私はルールづくりを専門とする弁護士だが、民意反映の手法の一つとして、条例などのルールづくりへの住民参加を提案したい。恒常的に身近な困りごとに自らの意見を反映させられるとともに、ルール制定を通じて活動の成果が見えやすいなどの利点がある。

住民参加のルールづくりの好例として、「手話言語条例」の制定が挙げられる。全国のろうあ者は、手話言語の理解と普及のため、「手話言語条例」というルールづくりを通じて課題の解決に取り組んでいる。全国初の鳥取県の条例をはじめ、現在は500近くの自治体が同旨の条例を制定し、様々な施策を展開している。

多くの自治体でルールづくりを担うのは、自治体の職員や議員だ。ただ、業務量の増加や人員削減などの影響で多くの自治体職員は日々の業務をこなすのに精いっぱいである。また、住民に最も近いとされる議員に対しても政策立案に関する支援は手薄い。

そこで、これからの時代は住民参加によるルールづくりの輪を広げていく必要がある。ルールづくりといっても何も細かい条文まで住民がつくる必要はない。自分たちの困りごとは何か、それを解決するために何が必要か、といった本質的な議論を住民同士で行っていくことが重要だ。

自分たちの暮らしているまちに何が必要なのかを一番知っているのは住民自身である。自分の困りごとから広げていければ、まちづくりに関心を持ってもらうきっかけにもなるだろう。地域に根ざす弁護士もこうした取り組みを支援していくべきだ。

自分たちのまちのことは自分たちで決めるのが、「住民自治」という憲法にもうたわれる基本理念だ。住民自治を実現するため、選挙を補完する意味でもルールづくりを通じた民意の反映が重要となる。こうした地道な積み重ねが投票率向上にもつながるはずだ。

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