2025/2/5

子どものころ、まんがの伝記を読むのが好きでした。
両親から最初に買ってもらったのが『豊臣秀吉』でボロボロになるまで、読んだ記憶があります。

その後、渡辺謙さんが主演の大河ドラマ『独眼竜政宗』が大流行しているときでしたので、『伊達政宗』を買い与えてくれました。
すると、大好きだった秀吉は全くの悪役で、その描かれ方の違いに驚きました。
主人公としての豊臣秀吉は、天下統一を成し遂げた英雄として描かれますが、伊達政宗から見ると、苦労して統一した奥州の領地を召し上げようと虎視眈々と狙う敵役として、憎たらしく描かれます。

その後、『徳川家康』を買ってもらうと、秀吉や正宗では狸爺だった家康は、苦労の末、天下泰平を成し遂げた英雄として描かれていました。
子どもが対象であり、まんがという特質上、デフォルメ化されているため、それぞれの違いが際立っていました。

今考えると、両親は、光の当て方によって、人の評価は変わるのだ。
そして、物事を多面的に見ることの重要性について、伝記まんがを通じて伝えたかったのかも知れません。

そこで、こうした多面的な見方を担保することにもにつながるのが、昨今話題の「ガバナンス」と呼ばれるものかも知れません。
組織における法務部やコンプライアンス部門は、経営陣とは異なる見方が可能な部署として、多面性を確保する役割が期待されています。

しかしながら、経営陣から見ると「耳に痛いことを言う」部署でもありますから、煙たがられ、嫌われることもあるでしょう。
特に、同調圧力の強いと言われる我が国の組織風土の下では、浮いた存在にもなりがちです。

そのため、外向けの体裁づくり(PR)のためにはいいように利用はされるが、社内的には実は顧慮されていないという組織も少なくないように思われます。
弁護士も表向きは「顧問の先生」や「社外取締役」などとしておだてられますが、都合よく利用されている面もあるかも知れません。
もちろん、優れた先生方は、それらの点を理解したうえで、道化師を演じながら、法の支配やコンプライアンスの問題に切り込んでいかれていることでしょう。

今、世間の耳目を集める企業に関しては、問題発覚後、コンプライアンス部署への相談が見送られていたとの報道もありました。
経営陣から相談される、信頼されるためには、どのようにしていけば良いのか。我々法律家としても考えていかなければならないように思います。

こうした風土や法意識といったものに対して、どのように対処していけばよいのでしょうか。
どうしたら本当の意味での信頼を確保できるのでしょうか。加熱する報道を見るにつけて、考えさせられます。

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